建設業許可を取得するための重要な要件の一つに、営業所への専任技術者の配置があります。
専任技術者は許可を受ける業種において専門的な知識や経験を有する者を配置しなくてはなりませんが、一般建設業許可においては以下のいずれかの要件を満たす者が専任技術者として配置されます。
- 国が示す国家資格の保有者
- 一定期間の実務経験を有する者
- 国土交通大臣特別認定者
理想的には「1」の資格者を配置することが望ましいとされておりますが、資格を保有した者が必ず在籍しているわけではありません。
そこで「2」の実務経験を有する者の配置を検討される建設業者が非常に多いのですが、実務経験による配置の場合には大原則として10年(120ヶ月)の実務経験が必要であり、この事実を証明する書面を提出しなくてはならず非常に難易度の高い申請となります。
しかし、実務経験を有する者が高校や大学にて国が示す指定学科を卒業していることで実務経験の期間を大幅に短縮することが可能となります。
そこで今回は、高校や大学においてどのような学科を卒業していることで指定学科として認められているのかや、短縮される期間などについて解説してみます。
これで専任技術者の確保を諦めていた方も、新たな道が開けるかもしれません。
工業系の高校や大学を卒業することで得られる専任技術者の実務経験短縮期間
前述のとおり、実務経験による専任技術者への就任を目指す場合には大原則として10年(120ヶ月)以上の実務経験を有していることと、この事実を証明できる書面を全て用意できることが求められます。
10年(120ヶ月)という長い期間の実務経験があること自体が簡単ではありませんが、これを証明するとなると相当な労力を要します。
しかし、高校、大学や専修学校において国が示す指定学科を卒業していることで、この10年(120ヶ月)を大幅に短縮できる可能性があり使わない手はありません。
具体的にどの程度の短縮が見込めるかを見てみましょう。
- 高等学校(中等教育学校を含む)にて国が示す指定学科を修めて卒業し5年以上の実務経験を有する者
- 大学(短期大学、高等専門学校を含む)にて国が示す指定学科を修めて卒業し3年以上の実務経験を有する者
- 専修学校にてを国が示す指定学科を修めて卒業した者のうち専門士又は高度専門士を称する者は卒業後3年以上、それ以外の者は卒業後5年以上の実務経験を有する者
となっており、実に半分以上も短縮されていることがわかります。
大学卒業者などにおいてはたったの3年にて専任技術者の要件を満たすことになります。
これにより証明する労力を大幅に緩和するだけではなく、実務経験の内容によっては複数の許可業種をまとめて狙えるケースもあり得ることになりますから、良く確認しておきましょう。
実務経験の短縮が認められる工業系の指定学科
さてここからは具体的に短縮が認められている「指定学科」についてです。
高校や大学などにおける国が示す指定学科は以下のとおりです。
指定学科一覧 | |
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土木工事業、舗装工事業 | 土木工学、都市工学、衛生工学又は交通工学に関する学科 |
建築工事業、大工工事業、ガラス工事業、内装仕上工事業 | 建築学又は都市工学に関する学科 |
左官工事業、とび・土工工事業、石工事業、屋根工事業、タイル・れんが・ブロック工事業、塗装工事業、解体工事業 | 土木工学又は建築学に関する学科 |
電気工事業、電気通信工事業 | 電気工学又は電気通信工学に関する学科 |
管工事業、水道施設工事業、清掃施設工事業 | 土木工学、建築学、機械工学、都市工学又は衛生工学に関する学科 |
鋼構造物工事業、鉄筋工事業 | 土木工学、建築学又は機械工学に関する学科 |
しゅんせつ工事業 | 土木工学又は機械工学に関する学科 |
板金工事業 | 建築学又は機械工学に関する学科 |
防水工事業 | 土木工学又は建築学に関する学科 |
機械器具設置工事業、消防施設工事業 | 建築学、機械工学又は電気工学に関する学科 |
熱絶縁工事業 | 土木工学、建築学又は機械工学に関する学科 |
造園工事業 | 土木工学、建築学、都市工学又は林学に関する学科 |
さく井工事業 | 土木工学、鉱山学、機械工学又は衛生工学に関する学科 |
建具工事業 | 建築学又は機械工学に関する学科 |
※ 表中の土木工学には、農業土木、鉱山土木、森林土木、砂防、治山、緑地又は造園に関する学科を含みます。
判断に迷う学科名について国が示す学科例
「土木工学科=土木工学に関する学科」、「建築工学科=建築工学に関する学科」、「電気工学科=電気工学に関する学科」など判断が難しくない学科名の場合には問題ありませんが、学校毎により様々な学科名が存在することを考えると、自分の卒業した学科がどの指定学科として認められているのかの判断に迷うこともあります。
そこで比較的多いとされる紛らわしい学科名については、国より通達が出ており参照することが可能です。
指定学科の具体的な学科の一覧 | |
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土木工学に関する学科 | 開発科 海洋科 海洋開発科 海洋土木科 環境造園科 環境科 環境開発科 環境建設科 環境整備科 環境設計科 環境土木科 環境緑化科 環境緑地科 建設科 建設環境科 建設技術科 建設基礎科 建設工業科 建設システム科 建築土木科 鉱山土木科 構造科 砂防科 資源開発科 社会開発科 社会建設科 森林工学科 森林土木科 水工土木科 生活環境科学科 生産環境科 造園科 造園デザイン科 造園土木科 造園緑地科 造園林科 地域開発科学科 治山学科 地質科 土木科 土木海洋科 土木環境科 土木建設科 土木建築科 土木地質科 農業開発科 農業技術科 農業土木科 農業工学科(ただし、東京農工大学・島根大学 ・岡山大学・宮崎大学以外については、農業機械専攻、 専修又はコースを除く) 農林工学科 農林土木科 緑地園芸科 緑地科 緑地土木科 林業工学科 林業土木科 林業緑地科 学科名に関係なく生産環境工学コース・講座・専修・専攻 学科名に関係なく農業土木学コース・口座・専修・専攻 |
都市工学に関する学科 | 環境都市科 都市科 都市システム科 |
衛生工学に関する学科 | 衛生科 環境科 空調設備科 設備科 設備工業科 設備システム科 |
電気工学に関する学科 | 応用電子科 システム科 情報科 情報電子科 制御科 通信科 電気科 電気技術科 電気工学第二科 電気情報科 電気設備科 電気通信科 電気電子科 電気・電子科 電気電子システム科 電気電子情報科 電子応用科 電子科 電子技術科 電子工業科 電子システム科 電子情報科 電子情報システム科 電子通信科 電子電気科 電波通信科 電力科 |
電気通信工学に関する学科 | 電気通信科 |
機械工学に関する学科 | エネルギー機械科 応用機械科 機械科 機械技術科 機械工学第二科 機械航空科 機械工作科 機械システム科 機械情報科 機械情報システム科 機械精密システム科 機械設計科 機械電気科 建設機械科 航空宇宙科 航空宇宙システム科 航空科 交通機械科 産業機械科 自動車科 自動車工業科 生産機械科 精密科 精密機械科 船舶科 船舶海洋科 船舶海洋システム科 造船科 電子機械科 電子制御機械科 電力機械科 農業機械科 学科名に関係なく機械(工学)コース |
建築学に関する学科 | 環境計画科 建築科 建築システム科 建築設備科 建築第二科 住居科 住居デザイン科 造形科 |
鉱山学に関する学科 | 鉱山科 |
学科例を確認しても判断が難しい場合
上記の具体的な学科例を確認しても卒業した学科名が無い場合、諦めなくてはならないのでしょうか。
上記の学科名はあくまでも例示です。
実際には学科名のみで判断しているわけではなく、その履修内容が重要となっております。
従って、専門的な授業や講義を履修しており、その学校を卒業していることが証明できれば可能性は高まります。
ただしこの場合、まずは管轄する窓口や行政書士への相談は必須でしょう。
その上で、卒業証明書のほか授業や講義を履修しことを証明する履修証明書、成績証明書など通常では添付を求められない書面等を利用することになろうかと考えます。
指定学科として認められることで実務経験期間を大幅に短縮でき、短い期間の経験をもって専任技術者となれるのですから諦めずにチャレンジしてみましょう。