建設業許可を取得する上で重要な役職である経営業務の管理責任者とは、「営業所において営業取引上対外的に責任を有する地位にあって建設業の経営業務について総合的に管理し執行した経験を有する者」とされておりますが、少々、難しいので要約すれば「建設業を営んでいる(営んでいた)法人や個人事業にて、一定の経営経験を有していて、建設業者としての経営について適切に管理できる者」といったところかと思います。
近年の法改正により「経営業務の管理責任者」という呼称は書面上はあまり使用しなくなり「経営業務の管理を適正に行うに足りる能力を有している常勤役員」などと呼ばれるようになりましたが、実務面では従来通り、「経営業務の管理責任者」やこれの略称である「経管」と呼ばれており、当サイトにおいてもそのように表記をしております。
この経営業務の管理責任者ですが、具体的にはどのような方が就任することができるのでしょうか。
経営業務の管理責任者(経営業務の管理を適正に行うに足りる能力を有している常勤役員)
2020年に改正法が施行され経営業務の管理責任者に就任できる者の範囲が随分と広がり、要件が緩和されました。
しかしながら、実務上はまだまだ実例が乏しく、従来よりスタンダードとされてきた要件にて許可を受けるケースがほとんどとなっているようです。
経営業務の管理責任者として要件を満たし就任ができる者として定められている内容には、大きく分けて2つのパターンがあります。
まず1つ目のパターンとして、
常勤役員または個人事業主が、以下①~③のいずれか1つに該当している場合には経営業務の管理責任者として認められます
- 建設業に関し5年以上、経営業務を管理する責任者としての経験を有している者
- 建設業に関し5年以上、経営業務を管理する責任者に準ずる地位にある者(経営業務を執行する権限の委任を受けた者に限る)として、経営業務を管理した経験を有している者
- 建設業に関し6年以上、経営業務を管理する責任者に準ずる地位にある者として、経営業務を管理する責任者を補助する業務に従事した経験を有している者
次に2つめのパターンとして法改正により新設されたものとなりますが、こちらは結構複雑です。
まず、常勤役員または個人事業主が以下①又は②に該当すること
更に上記に加え、以下③~⑤の全てに該当する常勤役員または個人事業主を直接に補佐する者を置く場合にこの常勤役員または個人事業主が経営業務の管理責任者として認められます(③~⑤の経験は同時並行的な経験を有していれば1名でも認められる)
- 建設業に関し2年以上、役員等としての経験を有し、かつ、5年以上役員等又は役員等に次ぐ職制上の地位にある者(財務管理、労務管理又は業務運営の業務を担当するものに限る)としての経験を有している者
- 5年以上、役員等としての経験を有し、かつ、建設業に関し2年以上役員等としての経験を有していること
- 許可申請等を行う建設業者において5年以上、財務管理の業務経験を有している者
- 許可申請等を行う建設業者において5年以上、労務管理の業務経験を有している者
- 許可申請等を行う建設業者において5年以上、業務運営の業務経験を有している者
以上が経営業務の管理責任者として認められる経験等の内容ですが、ご覧のとおり2つ目のパターンにおいてはかなり複雑です。
文字面だけを眺めても慣れない方にとっては非常に難しいのではないかと思いますので、1つめのパターンも含めて1つずつ見ていきましょう。
建設業に関し5年以上、経営業務を管理する責任者としての経験を有している者とは
建設業に関し5年以上、経営業務を管理する責任者としての経験を有している者とは、建設業を営む(営んでいた)法人や個人事業にて経営者としての経験を持たれている方です。
文字通りと言えば文字通りですので、難しく考える必要はありませんが、書面による審査が行われる手前、以下のような方が対象となります。
- 建設業を営む法人(株式会社や有限会社など)にて代表取締役や取締役に登記されていた期間が5年以上ある方
- 建設業を営む個人事業を経営し個人事業主として確定申告を行った期間が5年以上ある方
- 建設業法上の「建設業法施行令第3条に規定する使用人」としての経験が5年以上ある方
これまでは単に建設業を営むだけでは足りず、許可を受けたい許可業種に関連した経験などを求めていたこともありましたが、この辺りは全て撤廃され、単純に建設業者として5年以上の経験があるかないかを審査されます。
これらの経験は1社である必要もありませんし、年数も連続している必要もありませんので、複数の法人や個人事業にて通算して5年以上あれば要件を満たすことが可能です。
あえて注意点を申し上げるのであれば、株式会社などの法人での経営経験の場合には必ず登記されている(登記されていた)取締役であること、また、個人事業のケースで言えばしっかりと事業主としての確定申告がされていることです。
時折、名刺などに「取締役」と表記されているものの、実際には法務局に登記されていないケースもお見受けしますので、ご注意ください。
尚、「建設業法施行令第3条に規定する使用人」とは、建設業法上の従たる営業所(一般的には建設業を営み発注者との契約事務等を執り行う本社営業所以外の営業所)において営業所における請負契約の締結、商談、入札などを行う権限(会社より委任されている)を有した者を指します。通常、営業所長や支店長などがこれに該当することが多いでしょう。
但し、単に営業所長であれば「建設業法施行令第3条に規定する使用人」となるわけではなく、建設業法上の営業所及び令3条使用人としての届出が行われていることが必要です。
建設業に関し5年以上、経営業務を管理する責任者に準ずる地位にある者(経営業務を執行する権限の委任を受けた者に限る)として、経営業務を管理した経験を有している者とは
この要件を満たすポイントは、経営業務を管理する責任者に準ずる地位にある者がどのような者を指すのかを理解する必要があります。
★ 経営業務の管理責任者に準ずる地位にある者(経営業務を執行する権限の委任を受けた者に限る)
取締役会設置会社において、取締役会の決議により特定の事業部門に関して業務執行権限の委譲を受ける者として選任され、かつ、取締役会によって定められた業務執行方針に従って、代表取締役の指揮及び命令のもとに、具体的な業務執行に専念した経験をいう。
引用元:建設業許可申請・届出の手引き(埼玉県・令和4年度(第1版(令和4年4月施行)))より
冒頭、「取締役会設置会社において、取締役会の決議により」とありますから、どのような規模の大きな役職等を任されていたとしても、取締役会が設置されていない会社での経験はこの要件に当てはまることはありません。
この要件に関しても上記の「経営業務を管理する責任者に準ずる地位にある者」を理解することで文字通りに捉えていただくことで問題ないと考えます。
該当する経験をお持ちの方は、当時の会社と連絡を取り、必要書面の手配に尽くしましょう。
建設業に関し6年以上、経営業務を管理する責任者に準ずる地位にある者として、経営業務を管理する責任者を補助する業務に従事した経験を有している者とは
この要件自体は決してスタンダードなものではなく、かなり特殊なものとなりますが、それでもこの要件をクリアし、経営業務の管理責任者に就任されている方も少なくない内容です。
弊法人においてもこの要件を活用し、許可取得に導いた実績が十数件ございます。
弊法人において許可取得に至った主なケースを参考として掲出すると、
- 会社代表者の右腕として経営全般に関する管理、契約、対外的な交渉などを長く経験されていた方が就任したケース
- 対外的には取締役として経営全般に関する取引を長年任されていたが実際には登記がされていなかったケース
- 取締役として書面上の就任はしていたが登記懈怠となっていたケース
- 個人事業主の専従者として長年経営者と同等の立場にて事業を運営してきたケース
などが挙げられます。
個人事業における専従者としての経験については、この中でも多く認められているケースであり、概ねスタンダードと呼んでも差し支えない(勿論スタンダードではありませんので申請の際は事前調整が必須)かと考えるに至っておりますが、その他のケースでは法令に適合していることを証明するための書類集めや作成、法令の解釈に誤りが無いことを示すための書類集めや資料の作成、そしてこれらを基にした行政担当者との事前調整に随分と時間を要しました。
スタンダードではない要件をクリアしての許可取得は非常に大変なものとなりますが、事実が存在するのであれば諦めずに調整することも必要かと思います。
建設業に関し2年以上、役員等としての経験を有し、かつ、5年以上役員等又は役員等に次ぐ職制上の地位にある者(財務管理、労務管理又は業務運営の業務を担当するものに限る)としての経験を有している者とは
本項、経営業務の管理責任者として認められる要件として、新たに追加された内容です。新たに追加された内容は2つあり、その1つ目と言うことになります。
この内容を理解するためのポイントは、まず「役員等に次ぐ職制上の地位にある者」がどのような者を指すのかを知る必要があります。
★ 役員等に次ぐ職制上の地位にある者(財務管理、労務管理又は業務運営の業務を担当するものに限る)
当該地位での経験を積んだ会社内の組織体系において役員等に次ぐ役職上の地位にある者
引用元:建設業許可申請・届出の手引き(埼玉県・令和4年度(第1版(令和4年4月施行)))より
つまり想定されるケースとしては、建設業を営む会社にて2年の役員経験は有しているが、これ以外に役員や個人事業主としての経験はない。ただ、従業員としての勤務期間10年のうち3年間は経理部長として財務面の管理部門の長であった者などが挙げられると考えます。
ただ、上記はあくまでも例示であり「経理部長」であったからと言って必ず認められるものではなく、いわゆる肩書については一つの物差しにはなると考えますが、あくまでも「役員等に次ぐ職制上の地位にある者」であったことが様々な資料等から総合的に判断できることが重要です。
尚、この要件にて経営業務の管理責任者として認められるためには、別途、直接に補佐する者の配置が必須です。
つまり、「2年以上の役員や個人事業主としての経験&5年以上役員等又は役員等に次ぐ職制上の地位にある者+専属にて補佐する者」の配置にて初めて要件を満たせることとなります。
従来は一定の役員経験などを有した一個人が選任されていたのに対して、今回、新たに追加された要件に関しては、いわば一個人ではなく「組織」として経営業務を管理することを前提とした内容と言えるかと思います。
尚、直接に補佐する者の要件は以下3点を全て満たす必要があります。(同一部署にて重複して業務を行っているケースなど同時並行的に経験年数をカウント可能・全ての経験を有する1名の配置でもそれぞれの経験を有する複数名の配置でも可能)
- 許可申請等を行う建設業者において5年以上、財務管理の業務経験を有している者
- 許可申請等を行う建設業者において5年以上、労務管理の業務経験を有している者
- 許可申請等を行う建設業者において5年以上、業務運営の業務経験を有している者
5年以上、役員等としての経験を有し、かつ、建設業に関し2年以上役員等としての経験を有していること
本項、経営業務の管理責任者として認められる要件として、新たに追加された2つ目の内容です。比較的、こちらの要件は文字のとおりとなりますので、理解がしやすいものと思います。
通常、建設業に関する役員経験を求められますが、建設業に関連しない役員経験等も一定の条件のもと認められることとなりました。例としては、法人の役員経験や個人事業主としての経験が5年以上あり、そのうちの2年以上が建設業に関する経験であるといった場合です。
もう少し具体的に言えば、建設業を営む会社での役員経験が2年、運送業を営む会社での役員経験が3年の合計5年の役員経験ありのパターンなどが考えられます。
しかし、この要件にて経営業務の管理責任者として認められるためには、別途、直接に補佐する者の配置が必須です。
つまり、「5年以上の役員や個人事業主としての経験(内2年以上は建設業に関する経験)を有する者+専属にて補佐する者」の配置にて初めて要件を満たせることとなります。
従って、この要件についても一個人ではなく「組織」として経営業務を管理することを前提とした内容と言えます。
尚、直接に補佐する者の要件は以下3点を全て満たす必要があります。(同一部署にて重複して業務を行っているケースなど同時並行的に経験年数をカウント可能・全ての経験を有する1名の配置でもそれぞれの経験を有する複数名の配置でも可能)
- 許可申請等を行う建設業者において5年以上、財務管理の業務経験を有している者
- 許可申請等を行う建設業者において5年以上、労務管理の業務経験を有している者
- 許可申請等を行う建設業者において5年以上、業務運営の業務経験を有している者